同棲してる二人の日常。

現パロ・オジラシュです。同棲してる二人のことを優しく見守るエルザさんの話。エルザさんの旦那さん捏造ありです。ルカくんもいるよ。

今日のオジラシュ:相手に送ったつもりのLINE又はメールを間違って友人に送る
#同棲してる2人の日常
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ぴろりん、とスマホが鳴った。
お皿を洗っている所だったので後で確認しよう。
続けて、ぴろりんぴろりん、と鳴った。立て続けになんだろうか、急ぎかな、と思うけれども本当に急ぎなら電話がかかってくるだろうし、もうすぐお皿も洗い終わるし、とそのまま放置する。
少し間を空けてから、また、ぴろりん、と鳴る。
きゅ、と洗い終わったシンクを拭く手を止める。本当になんだろうか、ここまでくると気になってきた。
きゅきゅきゅ、と後片付けを簡素に済ませてスマホを取った。
「あら?アーラシュからだわ。」
思わず声が出る。彼からラインとは珍しい。
アーラシュは仕事の同僚だ。彼とはペアで仕事をしていた時期があり、今はペアを離れたとはいえ、なんやかんやと気が合って、時々一緒に飲みに行く仲だ。職場の飲み会で「酒豪」と呼ばれた自分と同じだけ飲めるのは彼だけではないだろうか。
飲みの誘いだろうか、と思ってぱっと画面を開く。

「帰ってきた」
「まだ仕事か?」
「今日は早いって聞いてたが」

何の話だろうか。今日は約束してなかったはず、とカレンダーを見るが、特に予定はない。よかった、とため息を付いてから最後のメッセージにも目を通す。

「ちゃんと、家で待ってるから。早く帰ってきてくれな」

ひゅ、と息が止まる。心臓がバクリ、と大きな音を立てた。
アーラシュは、顔も整っており性格もさっぱりとした男前、さらに嫌味かと思うぐらい気遣いまで完璧という、絵に描いたようなモテ男だ。私は旦那が一番ではあるけれども、絶妙な気遣いに思わずときめいてしまったことが何度かある。そんな彼を放っておくわけがなく、職場の女性たちは我先にと彼を落とそうとしていた。が、先日の飲み会でついに恋人がいるということが発覚して大揉めになったのは記憶に新しい。
これはもしや、恋人に送ろうとしたものではないだろうか…ということに気がついて動揺する。
「早く帰ってきてほしい」などと可愛らしいにも程がある。
などと思っていると、またぴろりんぴろりん、と手の中から音がした。
「まちがえた」
「わすれてくへ」
「ごめん」
よほどあわてて打ったのだろう文面が送られてきた。今ではメッセージも消せるということにまで頭が回っていないのだろう、そのあわてように笑いがこみ上げてくる。その文面に返事をせず、そのままタップ一つで電話を掛ける。すぐに彼が出た。
「アーラシュぅ?」
思わずからかうような声で名前を呼んでしまう。
『エルザ、ごめん、本当にすまん、忘れてくれ。』
電話口のアーラシュの声は震えていた。思った以上の動揺加減に面食らう。
「ちょ、ちょっと大丈夫?別に私は気にしてないんだけど…」
そこまで動揺する理由が見当たらなくて、思わず相手を気遣った。
『それならよかった、いやでも、その、な。えと…』
もごもごと口ごもる彼に、なぁに?と聞く。混乱してるときは少し待つのが一番いい。
『…めちゃくちゃ恥ずかしい。』
正直に言った彼に思わずんんっ、と胸が詰まる。こういう、不意に見せる天然が母性本能をくすぐるというかなんというか。
「送り間違えちゃうのはね…大丈夫よ 内容は誰にも言わないわ。」
『ありがとう、エルザ。送り間違えたのがアンタでよかったよ。』
ほぅ、と息をつく音が聞こえる。ただ、こんな美味しい機会を逃すわけにはいかない、と悪魔がささやいた。
「それはどうも!…もう恋人さんと同棲してるのね。気になるなぁ~アーラシュの恋人のお話~。」
わざとらしく抑揚をつけてそういうと、向こうがうぐ、と変な声をあげた。
『…かんべんしてくれないか、エルザ。』
はは、と笑ってごまかそうとする。声が震えているのもわかった。でも気になるものは仕方がない。それに変な奴にアーラシュを任せて置けない、というのもあって、どうしても気になるのだ。
あの恋人がいると露見した飲み会で聞きたかったのだが、周りが質問攻めにしているのに本当に困ったような顔をしているのを見かねて護ってしまった。その恩を返してもらうのもいいのではないか。
「ねぇ、アーラシュ。飲み会しましょ、お話聞かせてよ。あなたの大切な人の。」
努めて優しい声を出す。子供に話かけるように、怖くないよ、と安心させるように。この声に存外、彼は弱いのだ。
『……いいぜ、エルザ。飲みに行こう。』
震えたままの声で、彼は答えた。

さて、そんなこんなで約束の一週間後。
仕事終わりに行くよ~、と声を掛ける。二人で飲みに出るといえば、周りがお互い気を遣えよと笑う。こちらは既婚だし、アーラシュには恋人がいる。お互いパートナーがいるというのに男女一対一で行くなという意味だろう。飲み友だからいーの!と言えば、まぁ確かに酒豪だもんな、と謎の納得をされてしまう。まぁそれでも許してやろう。今日はアーラシュの話を聞くための飲み会だ!

「「乾杯!(プロージット)」」
二人で飲み会をするときの掛け声はいつもドイツ語だ。
私の故郷の言葉でもあるし、初めて二人で行った酒場がドイツビールの美味しいお店で、お店の酒を飲み尽くさんばかりに飲むわれわれに、常連客たちから「二人の飲みっぷりに!」とひたすら乾杯されたことを二人していたく気に入った結果だった。
「で、何が聞きたいんだ?エルザ。」
ほら、と枝豆を差し出してきながらアーラシュが言う。ありがと、と受け取ってがさりと自分の皿に移す。
「何が聞きたいというか、恋バナ聞きたいなぁ~っていうね。」
ぷちぷち、と鞘から出てきた枝豆をはむ、と食べる。塩茹でがビールにぴったりで本当に日本人は良くわかってらっしゃる、とうむうむとうなづいた。アーラシュは、はぁ、と言う。
「恋バナなんてたいそうなモンじゃないさ。」
そういってアーラシュはビールを煽る。いい音を立てながらのど奥へと流し込まれていくビールを横目で見ながら、ふーん、という。
「ってか、俺の恋バナなんて聞いても面白くも何にもないだろう?」
は、とビールを飲み終わったあとのため息なのか、鼻で笑われたのかわからないような笑いを漏らしてアーラシュは続けた。
「アナタの恋バナが面白そうだから聞くんじゃないのよ、アーラシュ。」
枝豆をおいて、私もビールジョッキに手をつける。
「アナタがわがままを言えるぐらい気を許してる相手が、どんな人なのかなって思ったの。」
そういって、ぐ、とビールを煽る。ジョッキはほぼほぼ満タンだったが、ぐいぐい煽ればすぐになくなる。飲んでる隣でアーラシュが店員さんに「生2つ」と追加をしてくれていた。さすがアーラシュである。
「わがままって。」
「早く帰ってきて、なんて。アナタそんな可愛いこと言ったことなかったでしょう。」
はぁー、と息を吐いたのはアーラシュだ。
「だからアレは忘れてくれっていったろ。」
「…怒ってる?」
珍しい対応に恐る恐るそう聞いてみる。穏やかに見えて短気なのは知ってる。でも子供みたいに癇癪を起こすような怒り方をしていたので、今回のように苛立っている姿を見るのは初めてだ。
「うぅ、怒ってるわけじゃねぇんだ。」
眉間にシワを寄せる。
「エルザ、アンタのことは信用してる。」
「なによ突然。」
「信用しているからこそ、お前に見限られないかどうか、裏切られないかどうかが怖いんだ俺は。」
生二つ、おまちぃ!と元気良く若い女の子がお酒を持ってくる。ありがと、と普段のように笑ってアーラシュは受けとって、ほら、と渡してくれる。ありがとう、と受け取りながら、先ほどの言葉の意味を考える。
「私がアナタを見限るって?裏切る?」
なんでそんな話になるのだろうか。私が嫉妬に狂って相手を刺しにいくとでも思っているのかアーラシュは。
「いや、その、エルザ。疑っているわけじゃないし、お前が旦那のことを愛してるのは知ってるから、俺が誰と付き合おうがそれに対してなにか危害を加えるとか、そういうことを言ってるんじゃないんだ。」
時々、彼はそうやってこちらの心を見透かしたような返答をすることがある。ふぅん、となんでもないようなフリをする。これに関しても、いつか彼の口から聞いてみたいものだ。
「じゃあ、なんで私がそんなことするか心配してるの。」
そう聞くと、彼は、はは、と笑った。
「かつて、そうだったからだよ。」
そういって、彼はぐ、とビールを喉へ押し込んだ。
あぁ、きっと「かつて」彼は傷ついたのだろう。友達と呼べる人になにか打ち明けたときに。
「そこまで言われても、私はアナタを裏切ったり見限ったりしないわアーラシュ。もし間違ってることなら意見は言うかもしれないけど、それでもそれでアナタのことを嫌いになんてなるもんですか。」
そういって、アーラシュを見る。アーラシュはだん、と空になったジョッキを置いた。すいません、生2つ追加と出汁巻き明太お願い!と店員さんに声を掛けておく。
「頼もしい限りだな、エルザ。」
アーラシュはようやくこちらを見た。その深い黒色の瞳と目が合う。
「恋バナなんて、生まれてこの方初めてなんだわ。その、うん、俺恋人ができたの初めてだし。」
そういってこちらに向いたまま頬杖を付く。見た目よりも柔らかそうな頬がむにり、と手の形に変わる。
「俺、男が好きなんだ。」
僅かに震えた声、張り付いた笑顔、そして探るような目。アーラシュの告白に驚きを隠せはしなかったが、それでも、はぁ、と息を吐いた。
「そっか、そういうことなのね。」
この国に限らず、ヘテロが多い世の中ではまだ偏見が強い。告白にも勇気が必要なことだ。
「引かないのか?」
「引く理由にはならないでしょう。むしろありがとう、アーラシュ。」
信用してくれていた、自分との縁を大事に思っていてくれた、それ以上のものをもらったような心持だ。
「…こちらこそ、ありがとうエルザ。」
くしゃくしゃに顔をゆがめたアーラシュの頭をぎゅう、と抱きしめる。胸にぎゅうぎゅうと閉じ込めてあぁ、なんていじらしい、と笑う。
ばしばし、と軽く腕を叩かれたのでそっと解放する。はっ、と息を吸い込んでぜぇ、と息を吐き出した。
「窒息するかと思った…。」
「あはは、ごめんごめん。旦那にも同じことを言われたことあったわ、凶器だから気をつけろって。」
「はは、間違いねぇな。」
アーラシュはからりと笑う。
「で、で!どんな人なの恋人さん!」
おそらくアーラシュの中で言い辛い大きなところはクリアしたと思ってぎゅぎゅっと近寄ってそう話を続ける。
「えぇ…うーん、何を言えばいいんだ。兄さんはなぁ…。」
「兄さんって呼んでるんだ?年上?」
「ちょっとだけな。あだ名はライダーって言うんだ。ライダーの兄さん。」
「バイク乗り?」
「さぁ…乗ってんのは見たことねぇな。昔乗ってたかもしんないが。」
「へぇ、らいだーさん。年上なんだ、なんかアーラシュ年下の方が好きそう。」
「はは、なんだその感想。」
「面倒見いいからアーラシュ、相手のことの面倒も見てあげてそう。」
「そうだな、兄さん家事からっきしだし、いいところの人だから金には困ってなさそうなんだよなぁ。」
「あら玉の輿?」
「かもしれない。でも一緒に暮らし始めた時はもしかして家政婦として雇われてたんじゃないかっていう感じだったけどなぁ。本当にまったくなにもしないんだぜ兄さん。」
「それは躾が必要よアーラシュ。」
「躾?」
「そう、ちゃあんと協力してもらうようにしていかないと、あなたが家から出られなくなるじゃない。」
「…もしかして俺監禁されようとしてる…?」
「え、ちょっとまってそういう感じの人なの?」
「目的のためなら手段は選ばない?」
「ねぇアーラシュ、私めちゃくちゃ心配になってきた。」
恋は盲目とはいうけれど、取り返しが付かなくなる前に打てる手は打つべきだとは思う、うん。
「まぁ、兄さんが俺を監禁するなら兄さんを倒すまで、だな!」
「まさかの武力行使?!」
「たとえ兄さんであろうと、恋人だといえども、気に食わんことは気に食わん。この前も俺が無断で夜ちょっとコンビニに出かけただけで烈火のごとく怒り出してさ。確かに声を掛けなかったのは悪かったから謝ったんだが。でもどこに行くかいつどれぐらいで戻るかとかこまごま聞いてきてなんだっていうんだ、好きなときに買い物に行って何が悪いんだって話だ。束縛するなら家を出るって言ったらまた怒ってこっちも怒って取っ組み合いの喧嘩した。」
「内容は過保護な親子みたいな内容だけど喧嘩方法が小学生ね…でどっちが勝ったの?」
「もちろん俺が勝った。でも兄さんの言い分も多少はわかるから、ちゃんとどこに行って何をするかぐらいは伝えることにした。」
「ちゃんと話し合いにまで昇華できた様で何よりだわ。」
「はは、一緒にいてあきねぇぞ。」
「それは何より。」
アーラシュが語る彼はひどく苛烈なようだ。容赦なく焼き尽くす太陽が心に浮かぶ。どこか孤独な雰囲気で、気さくなくせに最後の一歩は踏み込ませてくれない、そんな彼が選んだ相手。きっと本来は温かな人なのだろう。
「よかったねアーラシュ。また機会があれば会わせてね、らいだーさん。」
「もちろん、あいつが了承すればだがな。」
やっぱり独占欲が強い子供みたいな人なのか。でもきっと二人はうまくやっていけるのだろう、という確信があった。
「もし困ったことがあったら何でも相談してくださいな!」
「頼りにしてる、ありがとな、エルザ。」
にっこり笑った彼に少しぬるくなってしまったジョッキを掲げた。
「「乾杯!」」

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